「青チャートは全部やらないと受からない」。そう聞いて7月から手をつけ、8月に入ってもまだ数学Iの途中で止まっている。毎年、夏になるとこの状態の受験生に出会います。
先に結論を書きます。網羅系参考書を全部やる必要はありません。ただしこれは「適当でいい」という意味ではなく、どこを捨てるかを自分で判断できるかどうかが分かれ目だという意味です。この記事では、青チャートやFocus Goldをどこまでやるべきかの基準と、残り時間を無駄にしない回し方を整理します。
青チャートもFocus Goldも、改訂によって構成や問題数が変わります。この記事は考え方を示すもので、細かい構成は必ず手元の冊子でご確認ください。
まず「全部やる」を数字にしてみる
全部やるべきか迷ったら、感覚で悩む前に電卓を叩いてください。次の3ステップです。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 手元の冊子で、受験に使う全範囲の例題数を数える |
| 2 | 例題を5問だけ実際に解き、1問あたりの平均所要時間を測る(解答を読んで再現するまで含めて) |
| 3 | 例題数 × 平均時間 ÷ 1日に数学へ割ける時間 で日数を出す |
仮に例題が合計900題、1問あたり12分だったとします。それだけで180時間。数学に毎日2時間使っても90日かかります。しかもこれは1周目だけの計算で、章末問題も入っていません。他の科目もあります。
高3の8月にこの計算をして「間に合う」と出る人は、そう多くありません。だからこそ、削る判断が必要になります。
網羅系は「読む本」ではなく「解法の索引」
そもそも網羅系参考書は、最初から最後まで読み通すことを想定して作られていません。入試で問われる解法のパターンを、単元ごとに並べた目録です。
数学の入試問題は、初めて見る顔をしていても、中身は既知の解法の組み合わせでできています。求められているのは、問題文を読んだ瞬間に「これはあの型だ」と引き出しを開けられること。網羅系の役割は、その引き出しを作ることに尽きます。
目的は「冊子を終わらせること」ではなく「初見の問題で正しい解法を取り出せること」。この一文を勉強机に貼っておくだけで、やるべき問題とやらなくていい問題の線引きが変わります。
どこを捨てるか、3つの基準
基準1 難易度表示で上から切る
青チャートには例題ごとにコンパスの数、Focus Goldには星の数で難易度が示されています。この表示は飾りではなく、出版社が提示している優先順位です。
志望校のレベルに対して明らかに過剰な難度の例題は、1周目では飛ばして構いません。おおよその目安は次のとおりです。
| 目標レベル | まず完成させたい範囲 |
|---|---|
| 共通テストで7割前後、日東駒専・産近甲龍 | 下位〜中位レベルの例題。上位レベルは手を出さない |
| MARCH・関関同立、中堅国公立 | 中位レベルまでを確実に。最上位レベルは志望学部の頻出単元だけ |
| 地方国公立の二次、上位私大 | 中位〜上位レベルまで。最上位は余力があれば |
| 旧帝大・早慶・医学部 | 最上位レベルまで。ただし完璧を目指さず、早めに入試問題演習へ移る |
注意したいのは、最下位レベルの例題を「簡単だから」と飛ばすことです。ここは公式を確認するための問題で、抜けがあると上のレベルが全部崩れます。飛ばすなら上から。下からは飛ばさない。
基準2 志望校の頻出単元で優先順位をつける
志望校の過去問を5年分開き、大問ごとに出題単元を書き出してみてください。30分もかかりません。すると、その大学が繰り返し出している単元と、5年間まったく出ていない単元がはっきり見えます。
微分積分とベクトルが毎年出ている大学と、確率と整数が主戦場の大学とでは、網羅系のどこに時間を注ぐべきかが変わります。全単元に均等な時間をかけるのは、一見公平ですが実際には非効率です。
ただし共通テストを使う場合は話が別で、こちらは全範囲から出ます。二次・私大の頻出単元を厚く、共通テスト用に全単元を薄く、という二層構造で考えてください。
基準3 もう解ける問題は二度とやらない
最も削減効果が大きいのがこれです。1周目に必ず各例題へ印を残してください。
- 何も見ずに完答できた(2周目以降は原則やらない)
- 方針は立ったが計算や記述で崩れた(2周目でやる)
- 方針すら浮かばなかった(3周目まで残す)
この印がないと、2周目でまた最初のページから同じ順に解き直すことになります。すでに解ける問題を解き直す時間ほど、受験期に無駄なものはありません。
例題だけでいいのか、練習・章末はどうするか
「例題だけでいい」という意見と「章末までやらないと意味がない」という意見が、どちらも受験生の耳に入ってきます。役割が違うだけで、どちらも正しい部分があります。
| パート | 役割 |
|---|---|
| 例題 | 解法を頭に入れる。ここが本体 |
| 直後の練習問題 | 今読んだ解法が本当に使えるかの確認。数字違いに近いものも多い |
| 章末・巻末の演習 | 解法名を言われずに、自力で引き出しを開けられるかのテスト |
時間が限られているなら、優先順位は明確です。まず全範囲の例題。次に、つまずいた例題の直後の練習問題だけ。章末は、志望校の記述量が多い場合や、例題の定着が8割を超えてから取り組めば十分です。
逆に、例題が中途半端なまま章末に進むのは最も効率が悪いパターンです。引き出しに中身が入っていない状態で、引き出しを開ける練習をしていることになります。
1周目の正しい進め方
網羅系で伸びない受験生の多くは、量ではなく手順で損をしています。次の流れを守ってください。
- 問題を読んで5分考える。手が動かなければ解答を見る(悩み続けるのは時間の浪費)
- 解答を読んだら、冊子を閉じて何も見ずに最後まで書き直す。ここを省略すると、読んだだけで終わる
- 「なぜその一手目を選ぶのか」を一行でメモする。青チャートの指針、Focus Goldの着眼点の欄は、そのために置かれている
- 印をつけて次へ進む。同じ問題を同じ日に繰り返さない
2周目に入るのは、最短でも1週間以上あけてからです。忘れかけたタイミングで思い出す作業に、記憶を定着させる効果があります。解いた直後にもう一度解いても、それは記憶ではなく短期の残像をなぞっているだけです。
網羅系を離れるタイミング
判断はシンプルです。例題を見た瞬間に、解かずとも方針を口で説明できる割合が8割を超えたら、次の段階へ進んでください。
残りの2割を潰してから入試問題集に進もうとする受験生がいますが、この2割は入試レベルの演習をしながら戻ってきたほうが速く埋まります。網羅系を完璧にしてから次へ、という発想でいる限り、いつまでも過去問に着手できません。
網羅系は最後まで手元に置いておく本です。演習でつまずいた単元があれば、その都度戻る。卒業ではなく、主役から辞書へと役割を変えるイメージを持ってください。
青チャートとFocus Gold、どちらを選ぶべきか
結論として、この2冊に決定的な優劣はありません。今持っているほうを使ってください。
あえて傾向を挙げるなら、青チャートは解法の提示が簡潔で、例題の並びが体系的です。Focus Goldは解説やコラムに紙面を割いており、独学でも読み進めやすい構成になっています。ただしこの差は、勉強の成否を分けるほど大きくはありません。
本当に避けるべきなのは、途中で乗り換えることです。数学IAを青チャートで半分やって、Focus Goldに変えて最初からやり直す。この時点で数十時間が消えます。合わないと感じても、まずは自分の進め方を疑ってください。参考書のせいであることは、思っているより少ないです。
この夏、8月中にやっておきたいこと
高3生の場合、夏の終わりまでに受験で使う全範囲の例題を一通り通すのがひとつの目安になります。秋以降は入試問題演習と過去問、そして他科目に時間を取られるためです。
今の進度で8月末に間に合わないと分かった場合、取るべき手は3つです。
- 難易度の高い例題を切り、志望校レベルの範囲だけに絞る
- 直後の練習問題を一旦すべて省き、例題だけで全範囲を走り切る
- 頻出単元を先に、出題の少ない単元を後ろに回して順序を組み替える
やってはいけないのは、間に合わないと分かっていながら最初のページから順に淡々と進めることです。全範囲を一度通した状態は、半分を完璧にした状態より強い。入試は全範囲から出るからです。
高2生であれば、まだ削る必要はありません。学校の進度に合わせて、習った単元の例題を確実に積み上げてください。高3の夏に慌てて全範囲を追いかける事態を避けられるのは、この時期の使い方次第です。
まとめ
- 網羅系参考書は全部やる必要はない。まず残り時間を計算して現実を把握する
- 削るのは「難易度が高すぎる例題」「志望校で出ない単元」「すでに解ける問題」の3つ
- 優先順位は例題が最上位。章末は例題が固まってから
- 解答を読んだら必ず何も見ずに再現する。読むだけでは記憶に残らない
- 例題の方針が8割説明できたら、完璧を待たずに入試演習へ移る
- 青チャートとFocus Goldに優劣はない。途中で乗り換えないこと
網羅系参考書は、正しく使えば数学の土台を最短で作れる道具です。ただし「全部やる」という言葉に縛られた瞬間、同じ本が最も時間を奪う存在に変わります。終わらせることではなく、初見の問題を解けるようになることが目的だという一点を、夏のあいだ手放さないでください。
「どこまでやるべきか」の判断に迷ったら
削る範囲の判断は、志望校の出題傾向と現在の到達度が分からないと決められません。PingPointでは、志望校から逆算した参考書の進め方を一人ひとりに合わせて設計しています。全国どこからでもオンラインで受講でき、無料体験授業でご相談いただけます。