慶應義塾大学歯学部、誕生せず
長らく注目を集めてきた慶應義塾大学と東京歯科大学の統合構想は、2026年4月30日をもって、最終合意に至らないまま協議終結が発表されました。受験界では「慶應義塾大学歯学部」という新たなブランド誕生が期待されていましたが、その夢は一度、白紙へと戻ったかたちです。
―― 東京歯科大との統合協議、2026年4月末に終結
ここでは、何が起きたのか、なぜ合意に至らなかったのか、そしてこれから歯学部志望のみなさんが知っておきたい背景を、整理してお伝えします。
統合協議終結の概要
「2023年合併」から幾度かの延期を経て
慶應義塾と学校法人東京歯科大学は、2020年に法人合併に向けた協議を本格化させ、当初は2023年4月の合併、そして「慶應義塾大学歯学部」の誕生を目指していました。しかしコロナ禍をはじめとする環境変化のなかで、合併予定は延期を重ね、近年は具体的な進展が見えにくい状態が続いていました。
2026年4月30日、協議は幕を下ろす
そして2026年5月1日、慶應義塾は公式に「学校法人東京歯科大学との統合等に関する協議は、最終的な合意には至らず、2026年4月30日をもって終結した」と発表しました。理由としては「教育・研究・医療を取り巻く環境の大きな変化」など、総合的な判断によるものとされています。両法人は今後も交流関係は維持していく方針です。
泡と消えた慶應義塾大学歯学部
2023年から先送りされ続けた「慶應義塾大学歯学部」の構想は、現時点では幻となったわけです。
― 慶應ブランド維持にかかる莫大なコスト
給与水準を慶應に合わせる壁
合併が成立し、東京歯科大学の教職員がそのまま「慶應義塾大学歯学部」の構成員となれば、当然ながら給与体系は慶應の水準に合わせる必要が出てきます。慶應義塾は私学のなかでも待遇水準が高いことで知られており、これに合わせるとなると人件費は大きく膨らみます。
短期では赤字、長期で黒字 ―― それでも踏み込めない難しさ
仮に「慶應義塾大学歯学部」が誕生し、ブランド力で受験生・患者ともに集まる構造がつくれたとしても、当面は数年単位で赤字経営を覚悟する必要があると見られていました。長期的にはプラスへ転じる可能性があるとはいえ、足元の赤字を抱え込むリスクは小さくありません。こうした財務面の現実が、最終合意に至れなかった一因と受け止められています。給与も偏差値もプライドも高いKOブランド。慶應の名を汚さぬよう立ち居振る舞うのも楽ではないということです。

創始者諭吉の名に恥じぬ動じぬ
失われた「慶應ブランド」の数々
「医・看・薬」に「歯」が加わる総合医療系大学への進化
慶應義塾大学はすでに医学部・看護医療学部・薬学部を擁し、2011年度からは三学部の学生が合同で学ぶ「医療系三学部合同教育」を実施しています。チーム医療を意識した多職種連携教育に早くから取り組んできた大学であり、ここに歯学部が加われば、「医・歯・薬・看」の四分野がそろう総合医療系大学へと一段ステージが上がる構想でした。
歯科医師が病院内のチーム医療に関わる場面は、周術期口腔ケアや摂食嚥下、糖尿病・がん診療などで年々広がっています。慶應に歯学部が加わるという話は、教育の幅という面でもインパクトの大きい構想でした。
附属病院問題 ―― 市川総合病院は国際医療福祉大学へ
慶應にとってもうひとつの大きなメリットとされていたのが、附属病院の拡充です。慶應の附属病院は新宿区信濃町に1か所のみで、首都圏私立医大と比べて拠点数が少ないという弱点を抱えてきました。そこで東京歯科大学が運営する市川総合病院(千葉県市川市)を取り込めるのではないか、という噂が以前から流れていたのです。
ところが現実は別の方向に動きます。市川総合病院は物価高や人件費上昇などにより多額の赤字を抱えており、東京歯科大学側から学校法人国際医療福祉大学へ無償譲渡が打診されました。2025年12月に譲渡契約が締結され、2026年3月31日に「東京歯科大学市川総合病院」は閉院、翌4月1日から「国際医療福祉大学市川総合病院」として新たに開院しています。
メリットがなければ慶應ブランドは与えられない
慶應側から見れば、統合協議の終結とほぼ同時期に、期待されていた病院取得というメリットも一つ失われたかたちとなりました。
薬学部で証明「KOブランドの威力」
慶應義塾大学は2008年に共立薬科大学と合併し、薬学部・薬学研究科を設置しました。合併以降、慶應ブランドのもとで偏差値も志願動向も大きく押し上げられ、私立薬学部のなかではトップクラスの難易度を誇る存在へと変貌した経緯があります。いかに名門の共立薬大と言われても薬学関係者以外は知りえませんでした。一方慶應という名は大学受験と縁がない人すら知っています。KOというだけで誰もが振りむき憧れるその桃源郷ごとき美しさは何物にも代えがたいものがあります。
「私立歯学部2位」の東京歯科 × 慶應ブランドで万夫不当
東京歯科大学はもともと私立歯学部のなかで2番手の難易度に位置づけられる、伝統と実力のある単科大学です。仮に「慶應義塾大学歯学部」となっていれば、薬学部のときと同じく、私立歯学部のトップに躍り出る可能性は十分に考えられました。受験生・歯科医療界・大学関係者がこの統合に強い関心を寄せ続けてきたのも、こうした「KOブランド効果」への期待が大きかったためです。
東京歯科大、慶應のこれから
東京歯科大学のブランドは健在
協議終結を受けても、東京歯科大学そのものの教育・臨床における評価が下がるわけではありません。長年にわたり日本の歯科医療を担ってきた人材を多数輩出してきた伝統校であり、私立歯学部のなかでも上位の位置づけは変わらず維持されています。受験生にとっては、引き続き有力な進学先のひとつとして選択肢に残り続けるはずです。
慶應は次の一手をどう描くのか
慶應は薬学部を設置する際にも、最終的に共立薬科大学と組む前段階で複数の大学と協議を行っていたとされます。今回の歯学部構想についても、東京歯科大との合意は流れたものの、「慶應義塾大学歯学部」という青写真そのものが完全に消えたとは言い切れません。別の歯科系大学とのあいだで、新たなかたちで再び話が動く可能性もゼロではない、というのが冷静な見方でしょう。何があろうと慶應という名は揺るがないため、焦って下手な手を打つ必要はない深根固柢の姿勢にあります。
ひとまず2026年春の時点で、慶應に歯学部はなく、東京歯科大学は単科大学として歩みを続ける――その事実だけが静かに確定しました。歯学部を志すみなさんにとっては、いま目の前にある各大学の教育内容や臨床実習、卒後のキャリア像を、ご自身の関心と照らし合わせて見つめ直す機会にもなりそうです。
慶應歯学部に関する文献
- 慶應義塾「学校法人東京歯科大学との統合等に関する協議終結について」 https://www.keio.ac.jp/ja/news/20260501-news-info/
- 日本経済新聞「慶応大学と東京歯科大学の合併協議、合意に至らず終結」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD01B250R00C26A5000000/
- 朝日新聞「慶大と東京歯科大の合併協議が終結 『総合的判断』合意に至らず」 https://www.asahi.com/articles/ASV514RNVV51UTIL029M.html
- 読売新聞「歴史的につながり深い慶応大と東京歯科大、『合併』目指した協議を終結」 https://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/kyoiku/news/20260502-GYT1T00070/
- 国際医療福祉大学「学校法人国際医療福祉大学による東京歯科大学市川総合病院の承継について」 https://www.iuhw.ac.jp/news-info/2025/019287.html
- 東京歯科大学「東京歯科大学市川総合病院の事業譲渡について」 https://www.tdc.ac.jp/information/post-3455/
- 読売新聞「国際医療福祉大、市川総合病院を取得…多額の赤字で東京歯科大が譲渡」 https://www.yomiuri.co.jp/medical/20251218-GYT1T00412/
- ダイヤモンド・オンライン「慶應大との統合計画は白紙になったのか?東京歯科大『100年の悲願』」 https://diamond.jp/articles/-/348042